感想【TOPGUN MARVERICK】

映画

遅ればせながら話題作をみた。

TOPGUNといえば、言わずと知れたトム・クルーズの代表作であるが、
86年の前作は、そんな言うほどいい映画か?と、
正直、初見の高校生当時から思っていた。

映像と音楽がスタイリッシュでカッコいい、以外で、
物語や脚本の部分が良いかというと、なんだかそうじゃない気がしていた。

特に前作では、マーベリックの人物描写が、
とにかく軽いなぁ、と僕は思っていた。

トム・クルーズが主演の映画は、
だいたい、いつも軽い。

自信家で、女にモテて、やることなすこと全部カッコいい。
TOPGUINは、もう、トム・クルーズが全力で
そんなデキる男の軽さを無双する映画だ。

まず、劇中でトムがいつもニヤニヤしているのが鼻につく。
TOPGUNって、海軍のトップクラスのパイロットからさらにトップを決める学校だ。だから出てくるパイロットはぜんぶ陽キャだ。
トム演ずるマーベリックはもう、陽キャオブ陽キャだ。

上官の命令をことごとく無視し、女性教官に手を出し、挙句の果てに友人を危険にさらす。デキる男のやることなすこと、デキない僕からみれば、癪に障ること甚だしい。
ラストで結果オーライだから、すべてがチャラになるけれども、
現実でこんな奴が同じ職場にいたら、絶対に嫌だ。
振り回される周囲は大迷惑だろう。

マーベリック、そこへ座れ、と小一時間説教したくなる。

マジで。

しかし、そんな破天荒なマーベリックのキャラクターと、
極限状況におけるジェット戦闘機同士の空中戦の描写が、
異様なまでにマッチして、不思議な化学反応を起こす。

これにHighway to the danger zoneと、
ケレン味たっぷりの曲がBGMで加わると、
繰り広げられる無茶苦茶が、マーベリックだから、と許せてしまう。
それが、TOPGUNだ。

こんなふうに、マーベリックの描写に多少の難を感じるにしても、
前作は、有無をいわさず理屈を超えた高みへと、我々の心を持っていってくれる、そんな映画だった。

で、TOPGUN MARVERICK である。

前作があんな感じだったので、一抹の不安を抱えて見たけれども、
予想外に、僕が前作に抱いていた上記の疑問、マーベリックの人物描写の軽さが、見事に昇華されていて、やられた、と思った。

そうなのだ。

現実同様、前作から40年たったマーベリックを描くのだから、
当然といえば当然だけれども、
彼はもう、昔のチャラい彼ではないのだ。

自分のキャリアに多くの不満を持ち、悩み、一方で後輩には進んで道をゆずる、謙虚さも身に着けたマーベリック。

根拠のない自信だけは持っているニヤけた昔のマーベリックはもういない。

普通の大人になったのだ。

けれども根っこの部分で、彼は昔のままだ。
冒頭から、やっぱり、無茶をする。
その「無茶」の部分が、また大人になった彼を苦しめる。

彼は今回、昔卒業したTOPUGUNの教官として復帰するが、
途中、彼が言うセリフがとても印象に残った。

(海軍パイロットは)自分の職業ではなく自分そのものだから、教えることはできない

TOPGUN MARVERICK

言語のままだと、

It’s not what I am. It’s who I am.

TOPGUN MARVERICK

という短い文である。
この、not what I am と、who I am の対比がすごく素晴らしい。

英語なのに、まるで禅の言葉のようだ。
この一文に、彼のTOPGUNとしての哲学がすべて凝縮されている。
40年を経てこんな良いセリフをいうまでに成長したのかと、感慨深いものがある。

ところで実は常々、僕も似たようなことを思っていた。
仕事柄、映像の撮影や編集の仕方を教えないといけないことがある。
けれど、シャッター速度や絞りや、動画のIN点、OUT点の設定方法など
技術的なことは伝えられても、センスそのものは伝えることができない。
どうやったらカッコよくなって、どうやったらそれっぽい動画になるのか、
それはその人が今まで何を見てきて、何に感動したか、そこに由来する。
若い頃に何に接して、どんな人に影響を受けて、何を目指したのか。
それらの経験、記憶すべてがその人のセンスの糧になっていく。
マーベリックの立場と、僕とでは雲泥の差があるけれど、
例えば、僕が10年、20年かけて会得した、センス、スキル、
それらをもし誰かに伝授しようとすれば、
僕の歩んできた道のり全てを説明しないとわかり得ない。
だから、人に伝えるのは無理なのだ。
最近では、撮影や編集の仕方を教える場合、
僕が若い頃に見て感動した映画や、小説などを見たり読んだりするよう勧める。それが僕という人間を形作ってきたからだ。
あとは本人に感じてもらうしかない。

なので、「自分そのものだから教えることはできない」
という彼のセリフに僕は図らずも痛く共感してしまった。

とにかく、「 It’s not what I am. It’s who I am.」は、
ブルース・リーの「Don’ think, feel.」と同じくらい、
普遍的で誰の心にも刺さる、映画史に残る名文だと思う。

映画の中で、セリフにハッとさせられることって、なかなか無い。

おそらく今作を制作するにあたって、トム・クルーズが一番苦心したのは
40年を経たマーベリックに、何を語らせるのか、ということだったのだろうと思う。

この映画は前作に比べて映像技術以上に脚本がとても素晴らしい。
以前のように映像の迫力だけで押し切る映画ではない。
前作の軽さがまるで嘘のようである。

それが、いま不遇の時代にある映画業界において、スマッシュヒットしている要因だと思う。

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